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あの世で一番君が好き! 2
先日の深酒がしつこく残る昼の頃合。
漸くのそのそと活動を始めた白澤は、玄関の扉を叩く訪問者に、重い頭を抱えて起き上がった。鈍器で殴られるような痛みに顔を顰め、奥で白澤のために作られる昼食の薬膳鍋から手の離せない桃太郎に代わって突然の訪問者を迎え入れるべく扉を開く。
「いつまで待たせるおつもりですか」
この愚図、と二言目には罵倒が口から飛び出る仏頂面で男が立っていた。
三界広しと言えどもここまで凶悪に極悪にメンチを切れる存在を、生憎白澤は一人しか知らない。閻魔大王の補佐官。冷徹を通り名とするドSの化身。
先刻までの頭痛も何処へやら、白澤は連絡も無しに唐突に現れては持て成されて当然という風体で腕を組む鬼灯に白澤は一言言ってやらねば気が済まない、と口を開きかけて、閉ざした。突然、真っ赤になって閉口し俯く白澤に思い当たる鬼灯はそっと頬に手を伸ばした。びくり、と肩が跳ねて身を引く白澤の目は十二分に潤んでおり、ふるふると震えては吐息を漏らすだけで、満足に言葉を紡ぐ事のできないまるで怯える小動物の状況になってしまった姿に鬼灯の背中はぞわぞわする。しかしいつまでも入り口で立ったまま相対するのもなかなかに居心地が悪い、と鬼灯はパニックになって視線を彷徨わせたまま立ち尽くす白澤の腕を引いて、勝手知ったる極楽満月と店内を横断し、白澤の寝室へと姿を消したのであった。
「ほ、ほ、ほーずきっ」
ぱくぱくと口を閉じては開いて漸く言葉らしい言葉を発する白澤をまだ温かみの残るベッドに座らせて、鬼灯もサイドに腰掛けた。ぺたんと腰を落とす白澤からはいつもの棘が幾つか抜け落ちており、しかしそれが鬼灯の性癖を些か刺激する。時間が経てばいつも通りに戻ってしまうとわかっているからこそ、自分の行動に意図も簡単に振り回されている姿も愛おしかった。
「ぼく、おまえと、けけけ、けっ、けっこん、する、なんて・・・」
「拒否権は認めません」
なんでだよ!と調子付いてきた白澤の両腕を絡めとって、鬼灯は真白のシーツの上に押し倒す。真ん丸に見開かれた瞳が鬼灯だけを映す。
「私がそう決めたのです」
数秒の間の後に、白澤が大きく溜息をついた。
一度決めたならば梃子でも動かない、鬼灯の堅固さは長い間言い争ってきた白澤自身が一番良く知っている。
「・・・馬鹿、なんじゃない、」
意外に我儘な地獄の補佐官に絆されたとは口が裂けてもいえないが、あたたかな体温に白澤は笑みを浮かべて頬を淡い朱色に染めて、極上の微笑を浮かべたのであった。