地表で魚は泳げない

そなたが花だというのなら、いっそ蕾のつくころに手折ってやろうかと、恥も知らず幾度となく考えた。

咲き誇り、人を魅了し、何れは散ってゆく花だと評されることが、三成にとっては忌々しいもの以外何物でもなかった。お前には理解できぬことだと旧知の友の言も、何も言わず呵々と笑うだけの歌舞伎者も、重要なことは何一つ語らぬ己が腹心も、この時ばかりは酷く腹立たしいものであった。
ならばお前たちは幸村が死んでゆくことを望むのか、そう詰め寄っても彼らは一様にそういうことではないのだ、と首を振る。わけのわからぬことを、と三成は歯噛みする。
三成は幸村の死に場所を求めるような生き方を諌めた事があった。しかし、結局は幸村には届かず、それを聞いた兼続らはなんという愚行を、と嘆息して、三成を叱責した。三成はその瞬間、目の前が真っ赤になった。
愛しい者に生きていて欲しいと願うことを、貴様らは愚行というのか!
それはちがう、ちがうのだよ、三成、と兼続は悲しそうに首を横に振る。私達は皆、結局は無力なのだよ、あの美しく気高いひとつのもののふは、この時代に愛されて、この時代の終わりと共に死んでいくのだろう、三成、お前は気づいているはずだ、否、誰もが気付いている。この血で血をあらう、おぞましく長い戦乱がもうすぐ終わりを迎えることを。幸村はその終焉を自ら、伴に迎えたいと願うだろう。
三成とて、幸村のその願いには気づいていた。時折いと愛しむように悠を眺める彼のその視線の先には、この時代の終わりが見えているのであろう。それを待ち遠しいと願っているのか、ただただあるべき未来として見眺めているのか、それを断言することはできない。
けれど確かに、幸村はその終焉に身を置いて、その戦を死に場所と求めているであろうことは容易に図れた。三成は幸村と共に在ることは叶わぬだろう。

ゆえに手折ってやりたいと望む。決して手折られることはないとわかっていても。








配布元:サンライズ