01 ぼくのて、きみのて。(政幸無双無印→2)
おおきゅう御成りになりましたね、
幸村は政宗の掌と己の掌をそっと重ね合わせ、微笑んだ。
其の優しい眼差しは僅かな差を見せる指先をなぞっている。
同い年の男に年下扱いをされて、む、と政宗は眉を寄せて。
それに気付いた幸村はふふ、と小さく声をあげて笑って視線を政宗に合わせたのだった。
02 血脈(秀忠→幸村)
秀忠はただただ悲しかった。
己が仇を睨みつける其の瞳に、己が映っていることが、何よりも悲しかった。
無理矢理捉えた真田幸村を前に、一歩も動くことが出来ない。何十という兵と家臣を失って、漸く手に入れた懐かしき人は、射殺さんばかりに自分を見上げているのだから。
幸村は秀忠にとっては父家康を討った敵であった。
ひどいひどい、と秀忠は顔を覆って崩れ落ちた。
そなたに愛されることを、この血が許してくれぬとは、
03 忠誠を誓った服従(創作元就←隆元)
卑小で愚凡な自分には偉大で何処までも光り輝く父が全てであった。
隆元は己がどれほど愚鈍で役立たずであるか理解している。武門の子でありながらと父が己の性質を厭い、弟二人が軽蔑しているのか、その理由も何もかも。
けれども、とぽつり、と小さな雨粒が一つ、隆元の頬を濡らす。
(愛してほしい、)
其の願いは終ぞ、叶わなかったけれど
04 過去の残像(歴史群像設定。勝頼の遺児を昌幸が保護)
勝千代様が身罷った。
父の落胆振りは見ていて痛いほどであった。これでとうとう武田の血は潰えたのだ。
、泣いているのか、弁丸
父上が泣かないから、と目元を腫らしても涙一つ見せる事のない父に抱きつけば、漸く聞こえてきた零れる嗚咽。抱きしめられる力が互いに強くなったのは必然のことで。
思い出せば、失われた過去の日々は、心打つほど美しく、儚いものであったのだ。
05 壁と鎖(創作勝頼←昌幸)
どうせ、死んでしまうのならば。
馬鹿なことを、と小さく笑ってみる。明日をも知れぬ身ならば、いっそ己の手で二度と見れないようにしてしまおうか、それを為せないと知っていて空笑ってみる。
両眼を覆う掌から零れ落ちた雫が地面を濡らす。
(どうしたって後悔ばかりだ)
結局全ては終わってしまうのだから。
06 ゆびきりげんまん(創作ごとさな)
たとえ貴方が死んでもわたしは振り返ったりはしないでしょう、
目元を緩めただけの悲しい微笑であった。真田は基次の手を無理矢理奪うと自身と彼の小指を絡ませてそう、告げた。
僅かに力を籠めただけの、それ。
等しく、貴方にもそうであってほしいのです。
応えるように、基次も力を籠めて指を絡ませた。
07 赤い糸(創作ごとさな)
私と貴方が此処で出逢ってこうなることは必然だったのです。
口許を吊り上げて笑ってみせる真田の其の瞳は黒灰色に濁って澱んでいる。
柱に背を預け、腕を組んで意識を半分飛ばしていた基次の目の前に突如現れた真田はそうのたまってなにがおかしいのか一人笑っていた。
肌と肌が触れ合ってしまうほどの至近距離に基次は吐き気を覚える。
濃い死臭が鼻をつくのだ。
ああ、なんて愉快なこと!
うっとりと目元を緩める真田が、徐に左手の小指を立ててみせる。
きらりと光る糸に真田の指は繋がれている。そして其の糸の辿り行く先には、己の手。
御覧なさいませ、この血に染まった赤い糸。貴方と私は連れあって共に死んでいくのですよ!
嬉しい嬉しいと歓喜の声をあげる真田に、それはそれでいいのかもしれないと基次は口端を吊り上げた。
08 傍の記憶(幸村と忍)
一つの呼吸だけが、幸村の感じ取れる全てだった。
血塗れになって、それでも尚、一人突き進んでいく。既に忍の姿はない。
幼い頃よりともに育ってきたもの、幸村に魅かれ付き従ったもの。
それら誰一つの呼吸とて幸村には伝わらない。
(みな、先にいったのか)
当たり前に傍にあった呼吸は、遠に消えうせていた。
09 友情のきずな(兼幸、微裏)
私たちは共に友情を誓った仲ではございませぬか!
肌蹴た胸元をぎゅうと握り締め、幸村は薄暗い闇の中へと自らを追い込むことになるとも知らずに後ずさった。
煌々と灯される明かりの下で、兼続は幸村をじっと見つめている。そして徐に其の手が伸ばされたやすく幸村は己を守る腕をとられた。幸村を掴むその指は荒々しい、男の指であった。
ぞわり、と背筋に冷たいものがはしり、無意識に幸村の目尻には涙が浮かぶ。
お止めください、やめてっ、兼続どの…っ
押し倒され、覆いかぶさられる。
脚を跳ね上げ、腕を追いやって自身を拘束する男を跳ね除けようと躍起になった。兄の如く慕っていた男のいきなりの豹変に困惑し狼狽するのは必然であった。
裏切ったのはお前たちのほうではないか!
兼続は頑なに拒絶する幸村に激昂した。
幸村、兼続、そして三成。小田原で友情を誓い合った三人は三人共に対等で平等であらねばならなかった。けれど幸村は三成と恋仲になった。それでも幸村と三成はこの友情は永劫続くものであると信じていた。
幸村…愛しておくれ、私を…。お前たちだけが二人で幸せになって、友である私だけが不幸せなどということは許されないのだよ…
きつく抱きしめられ、伝えられる兼続の想いに、幸村は目の前が真っ暗になる。
許して欲しい、と謝罪することすら戸惑われ、とうとう幸村は兼続を受け入れた。
10 ずっと、一緒(清幸)
生きてくれ、
そう叫んだ言霊は幸村には届かなかった。
清正がそう願うことを知っていたかのように、寂しげに歪められた瞳に清正は絶句する。
ここは、私の生きるべき場所ではありませんから、
それでも、共にと願ってしまう己の身勝手さに、清正は唇を噛み締めた。
配布元:サンライズ