おそろしくあかいにちじょう

懐かしい火薬の匂いとけぶる黒煙、人の死肉を漁りに黒羽の鳥が幾羽と回旋する。
聞き苦しい鳴き声をあげて、定めた獲物の上で羽を休めるその姿は久しく見ることのなかったものだ。しかし、脳にこびりつくように記憶されていたそれは、久方ぶりに見たことで、幸村の持つ戦の記憶をより鮮明なものへと換えた。
目を閉じて風景を反芻する。再び開けた視界には、幸村の焦がれて止まぬものがあった。

幸村は戦場を愛した。
生きとし生けるものに容赦なく齎される地獄を、幸村はこの上なく愛したのであった。幸村はまことのもののふであった。戦場においては他者に鬼と呼ばれるほどの血肉を纏いながらも、繰り出される槍は澱みなく澄んでいた。
幸村は苛烈に命を燃やす最上のもののふであったのだ。

わんわんと鳴りやまぬ耳鳴りに意識を傾けて、死臭に凝る空気に身を委ねていると、一人の忍びが幸村の足元に傅いた。忍が齎したのは西軍勝利の吉報であった。経った一日で終わってしまうとは天下を分ける大戦と呼ばれながらもあまりにもあっけないものだと少々驚いたものの、淡々と語られる戦の経過を聞いて、幸村は愕然とした。
すぐに戻ると言付けをさせ、忍びを先に城内へと帰させる。一人になって幸村は膝から崩れ落ちた。なんてくだらない話だろうか、地面に崩折れて両手で顔を覆って嘆いた。
天下の戦は、結局はただの、くだらない子ども同士の喧嘩のような、稚拙な戦になり下がってしまった。
加藤清正、福島正則と石田三成らの和解によって東軍は戦力を失い、反対に両名を取り込み勢いづいた西軍が勝利を収めたという。ただの内輪の意地の張り合いに帰結するなんとも無意味な戦に、幸村は慟哭した。
そしてまたもとの温水のなかで生き続けなければならないことに、幸村は苦しい苦しいと泣き叫び、その喉をかきむしるのであった。







配布元:サンライズ